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専属管轄条項が執行力を損なうとき

  • Katherine Chan
  • 2025年10月1日
  • 読了時間: 4分

事例の概要

ウェアラブル健康機器のイノベーションで知られる日本の大手電子機器メーカーが、香港を拠点とする委託製造業者(contract manufacturer)と 製造契約(manufacturing agreement)を締結しました。契約には、標準的な保護条項として秘密保持(confidentiality)、情報非開示(non-disclosure)、不使用(non-use)および取引回避禁止(non-circumvention)が含まれていました。


法的な確実性を確保するため、両当事者は準拠法を香港法とし、専属管轄条項(exclusive jurisdiction clause)を設け、香港の裁判所に専属的管轄権を与えることに合意しました。


生産は順調に始まりましたが、数か月後、日本企業の主力製品の模倣品が東南アジア市場に出回り始めました。社内調査の結果、情報漏えいは香港の委託製造業者の深圳子会社から発生していたことが判明しました。製品設計図、firmware(ファームウェア)、部品仕様など、重要な知的財産が流出していたのです。


日本企業は被害の拡大を防ぐため、中国本土の裁判所に差止命令(injunctive relief)の申立てを行いましたが、裁判所は受理を拒否しました。


法的見落としとその結果

製造契約には次の条項が記載されていました。


“This Agreement shall be governed by the laws of Hong Kong SAR and the parties agree to submit to the exclusive jurisdiction of the courts of Hong Kong.”

(本契約は香港特別行政区の法律に準拠し、両当事者は香港の裁判所の専属的管轄に服することに同意する。)


この条項自体は一般的なものですが、結果的に重大な問題を引き起こしました。


中国本土の裁判所は、この条項の exclusivity(専属性)を理由に管轄権を否定し、本件は香港の裁判所のみが扱えると判断しました。しかし香港の裁判所は、中国本土における injunctions(差止命令)の発令や執行権限を有していません。


結果として、日本企業は jurisdictional trap(管轄の罠)にはまり、実際の侵害が発生している場所で迅速に救済措置を取ることができませんでした。


同社が anti-suit injunctions(反訴訟差止命令)や parallel proceedings(並行訴訟手続)といった代替的な法的手段を検討した時点では、すでに市場シェアの喪失と信用の毀損が生じていました。


法的修正:より良い起草で防げた問題

この事案は契約上の悪意によるものではなく、将来を見越した設計の不足によるものでした。国際的なサプライチェーンにおいては、予見可能性と執行の柔軟性のバランスを取る管轄条項が求められます。


以下の二つの方法を取っていれば、この問題は回避できた可能性があります。


  • 非専属管轄条項(Non-exclusive Jurisdiction Clause)による執行の柔軟性確保契約上は香港を主要な紛争解決地として維持しつつ、他の法域で緊急救済を求めることを認める設計にすることが可能です。これにより、法的一貫性を保ちながら、実際の侵害地で迅速な対応を取ることができます。

  • 中国法準拠の補足契約および深圳国際仲裁院仲裁(Parallel PRC-Law Agreement with SCIA Arbitration)

中国本土の関係会社が関与する場合、中国語による補足契約を中国法準拠で締結し、深圳国際仲裁院(Shenzhen Court of International Arbitration (SCIA))での仲裁を定めることが推奨されます。

この仕組みにより、中国本土での執行が可能となり、暫定措置(interim measures)の申立ても行えます。


中国語で契約し、深圳国際仲裁院仲裁(SCIA arbitration)を採用する利点は以下の通りです:

  • 中国法の下での執行可能性が高い

  • 翻訳をめぐる紛争を回避できる

  • 中国本土の当事者に対して迅速に差止命令(injunctive relief)を申請できる


変化する法的環境

近年の動向を見ると、法制度は着実に進化しています。

  • 香港と中国本土の間では、判決の相互執行(reciprocal enforcement of judgments)に関する制度が拡充されており、新たな協定が実施されれば適用範囲が大幅に拡大する見込みです。

  • 2019年以降、香港仲裁においても、中国本土の裁判所に対して直接暫定措置(interim measures)を申請できる制度が整備されています。


このように、執行を支援する制度は改善が進んでいますが、移行期には依然として法制度上のギャップが存在します。したがって、契約起草段階でこうしたリスクを予見的に織り込むことが重要です。


重要な示唆

専属管轄条項(exclusive jurisdiction clauses)は法的な確実性を提供しますが、国境を越えた製造業や知的財産を重視する産業では、執行の妨げとなる場合があります。損害が発生している場所で即座に対応できなければ、法的明確性は意味を持ちません。


Katherine Chan Law Office は、法令遵守のみならず、実際の商業的・地理的現実に対応した契約設計を支援します。実効的なリスク管理には、状況に即した管轄戦略(jurisdictional strategy)が不可欠です。


免責事項

本稿は情報提供のみを目的とするものであり、法的助言を構成するものではありません。ここで示された事例は架空のものであり、実際の事象や企業との類似は偶然にすぎません。法域ごとに法律や規制が異なるため、本稿はすべての法的・実務的対応策を網羅するものではありません。具体的な事案については、Katherine Chan Law Office または資格ある法律専門家にご相談ください。本稿の内容に基づく行動については、いかなる責任も負いません。

 
 
 

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