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重大な契約違反か、それとも部分的履行か

  • Katherine Chan
  • 2023年10月1日
  • 読了時間: 5分

事例紹介

日本のエンジニアリング会社が、香港を拠点とする製造業コングロマリットと契約を結び、中国本土に3つの生産工場を設計することになりました。3つの工場は順次建設され、同一の設計・システムを採用することで効率を最大化し、設計作業の重複を削減する予定でした。


契約では、各工場の完成時にほぼ同額の3回分割払いを行うことが定められていました。しかし、全体の報酬は「3工場分をすべて完了する」ことを前提に大幅な割引価格となっており、エンジニアリング会社の利益はプロジェクト全体の完了に依存していました。2期分しか完了しなければ、会社は赤字になります。


最初の2工場は問題なく設計・建設されましたが、経済情勢の悪化により、香港側は第3工場の建設を無期限に延期。エンジニアリング会社は重大な契約違反(material breach)を理由に訴えを起こし、最終段階を進めないことは契約の核心的価値を奪うものであると主張しました。


一方でコングロマリット側は、既に提供されたサービス分はすべて支払済みであり、最終段階の延期は違反には当たらないと反論しました。


法的検討とその帰結

争点は、第3段階の無期限延期が香港契約法上の重大な契約違反(material breach)に当たるかどうかです。契約の根幹となる義務、すなわち本質的条件(condition)の不履行があれば、相手方は契約を解除し、損害賠償を請求することができます。


もっとも、すべての義務が本質的条件(condition)とみなされるわけではありません。その判断は契約文言、構造、商業上の文脈に左右されます。本件契約には「3段階すべての完了が不可欠」とする明文規定も、「特定の段階が遅延または中止された場合に違反となる」との条項もありませんでした。


さらに、各工場の完成ごとに報酬を支払う仕組みから、この契約は分割可能(divisible)と解釈される余地があります。香港の裁判所は、履行が独立した価値を持つかどうかを重視するため、この点はコングロマリット側の主張を裏付けます。すなわち、同社は受け取ったサービスに対してはすべて支払い済みであり、最終段階を「中止」ではなく「延期」しただけであるという立場です。


契約上、「全体完了」(full delivery)が本質的条件(condition)であるとの明文がなければ、裁判所は延期を違反と認めない可能性が高いでしょう。エンジニアリング会社は、全体完了を前提に利益を見込んでいたとしても、契約上その損失補填を求める根拠が乏しく、事業継続を強制することも困難です。せいぜい、第3段階に向けて発生した準備費用の補償や、契約が著しく不公平であった場合のquantum meruit(衡平報酬請求)を主張できる程度です。しかし、これらの主張は立証が難しく、実務的な救済手段としては弱いと言えます。


本件の最大の問題は、「何をもって重大な契約違反(material breach)とするか」を契約で明示せず、価格割引が「全体履行」を前提にしていることを明確にしなかった点にあります。


法的改善策:明確な契約条項で紛争を防ぐ

このような紛争は、法的義務と商業的現実を一致させる明確な契約条項を設ければ防ぐことができました。価格設定が全体履行に依存している場合は、その旨を明文化し、法的拘束力を持たせることが不可欠です。


本質的条件の明示条項

“The parties agree that completion of all three phases is a condition of this Agreement. The consultant’s pricing reflects full project execution.”

(当事者は、本契約における3段階すべての完了が本質的条件(condition)であることに合意する。報酬設定はプロジェクト全体の完遂を前提とする。)


重大な契約違反の定義条項

“Failure to commence any phase within six (6) months of the preceding phase’s completion, or cancellation of any phase, shall constitute a material breach.”

(前段階完了後6か月以内に次段階を開始しない場合、またはいずれかの段階を中止した場合は重大な契約違反(material breach)とみなす。)


価格調整条項

“If the Hong Kong conglomerate does not proceed with all three phases for reasons not attributable to the consultant, the consultant shall be entitled to adjust fees retroactively to standard rates for each completed phase.”

(香港側の責によらず3段階すべてを実施しない場合、コンサルタントは完了済み段階について報酬を標準料金に遡って調整できる。)


不可分契約条項

“This Agreement is not divisible. Performance of each phase forms part of a single, integrated engagement.”

(本契約は不可分契約(non-divisible)であり、各段階の履行は一体的な業務の一部を構成する。)


長期延期に関するオプション条項(任意)

“If commencement of the next phase is delayed for more than twelve (12) months, the consultant may elect to treat the contract as terminated and recover fees on a standard-rate basis.”

(次段階の開始が12か月を超えて遅延した場合、コンサルタントは契約を終了とみなし、標準料金に基づく報酬を請求できる。)


香港法のもとでは、明確に記された契約義務は原則として裁判所により執行されます。上記のような条項を設けておけば、「全体履行」が単なる期待ではなく法的義務となり、「部分的履行」による抗弁を封じ、コンサルタントが失われた価値を請求できる根拠を確立できます。


重要なポイント

段階的な履行を前提とする契約では、「どのような場合が違反に当たるか」を明確にしないと大きな損失につながります。利益が全体履行に依存している場合、契約書には必ず主要な義務と不履行時の法的結果を明記すべきです。さらに、無期限延期や長期停滞に対応する条項を加えることで、実務上の不確実性を軽減できます。


Katherine Chan Law Office は、契約文言をビジネスの意図と整合させることで、このようなリスクを未然に防ぐサポートを提供しています。段階的なプロジェクトやパッケージ価格の契約を締結する際には、紛争発生前に法的に実効性のある保護を設けることが重要です。


免責事項

本記事は情報提供のみを目的としており、法律上の助言を構成するものではありません。記載の事例は架空のものであり、実在の人物・団体との類似は偶然です。法域ごとに法律や規制要件は異なり、本稿はすべての選択肢を網羅するものではありません。具体的な事案については、Katherine Chan Law Office または専門の法律家にご相談ください。本文内容に依拠して生じた損害等については一切の責任を負いません。

 
 
 

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