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「MPF(強積金)オフセット制度」廃止の核心を3分で解説
2025年5月1日より、香港で「MPFオフセット制度」が廃止されます。これは雇用主と従業員にとって非常に重要な法改正となります。
旧制度におけるMPFオフセット
旧行法では、従業員の退職に伴い、法定の解雇手当(severance payment)や長期勤務手当(long service payment)を受け取る際、雇用主は自らのMPFまたはORSO(職業退職計画)拠出金残高を退職金支払額と相殺ができました。つまり、解雇手当の一部をMPF拠出金で賄う仕組みです。
2025年5月1日以降の変更点
2025年5月1日以降の相殺制度の廃止により、雇用主はMPF強制拠出分を解雇手当や長期勤務手当に充当できなくなります。ただし、廃止は移行後期間の退職金にのみ適用され、移行前期間(2025年5月1日以前の雇用期間)に対しては引き続き相殺が認められます。また、雇用主の任意拠出分は従来通り相殺が可能です。
雇用主向けの政府支援
今回の制度変更に伴い、香港政府は25年間にわたる補助金制度を導入します。これは解雇手当や長期勤務手当にかかる費用負担を軽減する為のもので、補助割合は段階的に減少します。
補助金年度において50万ドルの閾値(しきいち)内に収まる補助金申請
期間 / 雇用主負担割合 / 従業員1人当たり上限額 / 主なポイント
第1~3年(2025~2028年) / 50% / HK$3,000 / 雇用主のMPF負担額は50%
第4年(2029年) / 55% / HK$25,000 / 雇用主負担割合は55%
第5年(2030年) / 60% / HK$25,000 / 雇用主負担割合は60%
第6~9年(2031~2034年) / 毎年5%増加 / 第6年:HK$25,000; 第7年:HK$50,000 / 雇用主負担割合が毎年5%ずつ増加
第10~11年(2035~2036年) / 80% / 上限なし / 雇用主負担割合が80%に達す
第12~13年(2037~2038年) / 85% / 上限なし / 雇用主負担割合が85%に達す
第14年 ~19年(2039~2044年) / 90% / 上限なし / 雇用主負担割合が90%に達す
第20年 ~25年(2045~2050年) / 95% / 上限なし / 雇用主負担割合が95%に達す
最近、多くのクライアントから「解雇手当は整理解雇(redundancy)に基づくが、整理解雇とは何か?」という質問があります。香港の労働法では、業務変更により従業員の職務に影響が生じる場合に整理解雇が発生します。具体例は以下の通りです。
• 事業の閉鎖または閉鎖予定(撤退、清算など)
• 従業員の勤務場所における業務停止またはその予定
• 特定職種の需要減少または見込み減少
勤務成績不良による解雇は通常の解雇に該当しますが、業務能力が十分であるにも関わらず、上記の会社の都合で解雇される場合は整理解雇とみなされ、解雇手当の支払いが必要となります。
免責事項: 本記事は情報提供のみを目的としたものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。ケースはそれぞれ異なりますので、個別の法的指針を得るためには、資格を有する弁護士に相談されることをお勧めします。この記事により、弁護士と依頼人の関係が成立するわけではありません。
債権回収に関する法的および実務的な解決策とは?
香港における債権の回収は、督促や交渉、和解提案など、友好的な方法による解決が失敗した場合、困難に陥るケースが見受けられます。もし債務者が支払いを拒否した場合、債権者は法的および実務的な選択肢を検討できますが、法的手続きには時間と費用がかかるため、戦略的な対応が重要になってきます。
債権回収における法的な手続き 交渉が決裂し、支払いが行われない場合、債権者は以下の方法で法的措置を取ることができます。
1. 裁判手続きの債務額に応じて、各裁判所に案件を申請。
少額訴訟裁判所(Small Claims Tribunal) – HK$75,000までの請求を扱う。
地方裁判所(District Court) – HK$75,000~HK$3,000,000の請求を扱う。
高等法院(High Court) – HK$3,000,000以上の請求を扱う。
裁判の手続きを進めることで債権回収の法的強制力は得られるものの、時間と費用がかかるのが実情です。
2. 通常の召喚状
通常、債権者は裁判所に対して召喚状(Writ of Summons)を提出し、債務者に訴訟通知を送付することから始まります。しかし、香港では最終判決の取得に2〜3年かかる場合があり、迅速な回収を求める債権者にとっては負担が大きくなります。
3. 法的通知と破産・清算手続き
債務が明確かつ争点がない場合、債権者は法的催告書(Statutory Demand Letter)を発行し、21日以内の支払いを要求できます。この期間内に債務を清算しない場合、以下の法的手続きが進められる可能性があります。
企業の場合 – 会社条例(Companies Ordinance) に基づき、清算手続き(Winding-up)を開始できる。支払い不能な企業は倒産する可能性がある。
個人の場合 – 破産条例(Bankruptcy Ordinance) に基づき、破産手続き(Bankruptcy)を開始できる。これにより資産の売却や経済活動の制約が課される。
4. 判決取得の迅速な方法
裁判手続きは数年かかる可能性があるため、債権者は以下の方法を活用することでより迅速に判決を取得できる可能性があります。
a. 略式判決(Summary Judgment) – 債権者の法的根拠が十分であり、債務者に抗弁の余地がない場合、略式判決申請(Summary Judgment Application) を行うことができます。この手続きを利用すれば、本格的な裁判を経ずに迅速な判決を得ることが可能です。通常、略式判決の審理は約2〜3か月で行われるため、通常の裁判よりも早く結果を得られます。
b. 欠席判決(Default Judgment) – 債務者が召喚状(Writ of Summons)に対して指定された期間内に応答しない、または姿を消した場合、欠席判決を申し立てることが可能です。これにより、長期の審理を回避し、迅速に判決を得られる可能性があります。
債務執行と債務者の対応について
企業の清算(Winding-up)や個人の破産(Bankruptcy)を申し立てても、必ず資産を回収できるとは限りません。債務者に十分な資産がない場合、債権者は実質的な回収が困難となります。しかし、法的手続きは、債務者の対応や支払い意思を探るための戦略としても活用できます。多くの債務者は、清算や破産による将来の影響を避けるため、裁判が進行する前に債務の返済に応じるケースがあります。特に企業の場合、清算されると経営者の信用に影響を与え、個人の場合でも破産記録が長期間残るため、生活や取引に支障が出る可能性があります。そのため、法的手続きにより、債務者に支払いを促す為のプレッシャーをかけることができるのです。
債権者は弁護士の助言を受けながら最適解を慎重に選択する必要があります。独断での決定はリスクが伴い、かえって損害を拡大する可能性もあるため、専門家の意見を参考にすることが重要です。
免責事項: 本記事は情報提供のみを目的としたものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。ケースはそれぞれ異なりますので、個別の法的指針を得るためには、資格を有する弁護士に相談されることをお勧めします。この記事により、弁護士と依頼人の関係が成立するわけではありません。
詐欺グループを撃退せよ! 香港での法的手続きと対策
現在、香港では日系企業、外資系企業、地元企業を問わず、詐欺が大きな問題となっています。詐欺師は、最新技術を駆使した巧妙な手口で被害者を欺き、多額の金銭を振り込ませることが多く、今回は、詐欺の一般的な手口、法的手続きおよび防止策を解説します。
一般的な詐欺の手口
詐欺師は、以下のような手口で個人や組織を騙し、金銭を振り込ませています。
「ボス詐欺」
人工知能や電子通信を用いて、グループや本社のCEOなど上級幹部になりすまします。子会社の従業員(例えば香港オフィスのスタッフ)に、想定される取引の為の資金を緊急で送金するよう指示します。多くの場合、詐欺師はCEOの声や内部情報を含む関係企業の詳細情報を持っており、内部リーク、サイバー攻撃、AIによる企業構造やコミュニケーション・チェーンの弱点の分析を通じて入手している可能性が高いです。そういった高度なレベルと緻密さが、彼らのスキームの信憑性を高めています。
「偽の専門家」
商取引を始めると、偽の弁護士や偽の会計士など、通常は英語名を名乗る偽者を紹介してきます。その後、この「専門家」が被害者に接触し、信頼を得ようとします。詐欺師は、正規のアドレスによく似た電子メール・アドレスなどを使用しますが、その違いが軽微である為、見破るのは困難です。
「フィッシング」
詐欺師は、金融機関、物流会社、その他の一見すると無害なサービス・プロバイダーなど、信頼できる機関から発信されたように見せかけた電子メールなどを送り、疑いが持たれないようにします。これらの通信は、被害者に口座情報の確認や支払いを要求し、多くの場合、不正な口座に資金を振り向けます。
「請求書詐欺」
この手口は、詐欺師が正規の請求書を横取りし、支払明細を改ざんした後、資金を自分の口座に流用します。また、信頼できるベンダーやサプライヤーになりすまし、被害者に新しい銀行口座への支払いを指示することもあります。
「電子メールのハッキング」
詐欺師が、電子メールや他のメッセージング・アカウントをハッキングした後、継続的なコミュニケーションを監視しながら不正な請求書を送るタイミングを待ちます。これらの請求書は、しばしば中東地域などの口座に支払いを誘導し、資金の追跡を困難にしています。
「重層的な送金」
詐欺師が不正に入手した資金の追跡を複雑にする為、複数の口座を用いて、多くの場合1~2日以内に素早く送金します。「マネーロンダリング(資金洗浄)」とも呼ばれるこの手口は、被害者の損失回復を非常に困難にします。
香港における刑事訴追
詐欺は、香港の窃盗条例(第210章)に基づく犯罪行為です。詐欺が疑われる場合は、直ちに香港警察(HKPF)に通報する必要があります。
通報の手順
警察署訪問またはHKPFの「e-Report Centre」によるオンライン報告が可能です。この際に弁護士の同行をお勧めします。
早期の対応
警察は銀行口座の一部を迅速に凍結できる場合がありますが、リソースの制約があります。被害者は早期段階で弁護士へ依頼し、裁判所に「緊急差止命令」を求めることで積極的な法的措置を取ることが可能です。
民事訴訟による資金回収
民事訴訟は、詐欺被害者が資金を回収するために重要です。
訴訟手続き
訴訟は高等裁判所または地区裁判所で開かれます。差止命令の申請により、詐欺師の口座凍結を図ります。
緊急審理
裁判官が即日判決を下す場合もあり、資金回収を迅速化できます。
法的支援が重要な理由
弁護士は差止命令を短時間で準備し、資金の流出を迅速に防ぐことが可能です。また、詐欺師は国際取引を行う場合が多い為、弁護士による海外の法務チームとの連携が必要になります。これにより、資産追跡の専門知識が豊富な弁護士らが、隠された資産を検出し、複数の法域での回収を支援します。また、戦略的交渉により、法律チームによる和解交渉などで回復が最大化できる場合もあります。
詐欺は香港における重大な課題ですが、法的措置と迅速な対応で損失を軽減することが可能です。我々「Katherine Chan Law Office」では、クライアントの資金回収を最大化するための法的支援を提供しています。詐欺が疑われる場合は、直ちにご相談ください。
免責事項: 本記事は情報提供のみを目的としたものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。ケースはそれぞれ異なりますので、個別の法的指針を得るためには、資格を有する弁護士に相談されることをお勧めします。この記事により、弁護士と依頼人の関係が成立するわけではありません。