『権利不放棄条項(No-Waiver Clause)』があっても、保証責任の解除を防げない理由
- Katherine Chan
- 2024年11月1日
- 読了時間: 5分
事例の概要
日本の精密機械メーカーは、中国本土での販売網拡大を目的として、香港の商社と数百万ドル規模の供給契約を締結しました。信用リスクを抑えるため、日本側は香港の販売代理店の中国本社に会社保証(corporate guarantee)を要求しました。
当初、この取引は順調に進みました。注文は増加し、香港の商社も中国市場での地位を確立しました。しかし1年以内に資金繰りが悪化。訴訟を避けつつ取引関係を維持したいと考えた日本企業は、複数回にわたり支払期限を延長しました。これらの対応は、簡易なサイドレター(side letter)やメールのやり取りで記録されただけでした。
日本企業は、契約書に以下の条項があることを理由に、保証は保全されていると考えていました。
“No waiver or indulgence granted shall discharge or affect any party’s obligations under this Agreement or any related guarantee.”
(いかなる権利の放棄や寛大な対応も、本契約または関連する保証に基づく当事者の義務を免除または影響するものではない。)
この文言により保証は有効と信じ、日本企業は中国側の保証人に確認を取らずに支払いを延期しました。
しかし最終的に香港の商社が債務不履行となった際、日本企業は高くつく教訓を得ることになりました。善意の「期限延長」が、結果的に保証人の責任を免除する効果を生んでしまったのです。
法的な見落としとその結果
問題の根本は、保証契約の法理に対する誤解にありました。香港法(および英米法の共通原則)では、債権者が保証人の明示的同意なしに主債務の内容を変更(たとえば支払期限の延長)した場合、保証人は原則として免責されるとされています。これは保証人が予期せぬリスクを負担しないよう保護するための原則です。
日本企業は権利不放棄条項(No-Waiver Clause)を契約に含めていたものの、支払条件の変更について保証人の書面同意を取得していませんでした。その結果、保証人は「期限延長によりリスクが実質的に変化した」「同意も通知もなかった」と主張し、裁判所は保証人の責任解除を認めました。
こうして日本企業は、保証に基づく請求権を失い、回収不能な債権だけが残ることになりました。最終的に取れる法的手段は、すでに支払い不能に陥った香港企業に対する債権回収訴訟だけでしたが、費用と時間をかけても実りはありませんでした。
法的対応策:より強固な保証条項でリスクを防ぐ
実効性の高い保証契約を構築するには、一般的な定型条文だけでは不十分です。以下のような条項を加えることで、保証人の免責を防ぐことができます。
変更同意条項(Consent to Variations Clause)
“The Guarantor agrees that its obligations shall remain in full force notwithstanding any extension of time, indulgence, or variation granted to the principal obligor, whether or not the Guarantor has been notified.”
(保証人は、主債務者に対する支払期限の延長、猶予、または条件の変更が行われても、通知の有無にかかわらず、自らの義務が引き続き完全に有効であることに同意する。)
継続保証条項(Continuing Guarantee Provision)
“This Guarantee constitutes a continuing security and shall not be discharged by any time extension, amendment, or renewal of the principal obligations.”
(本保証は継続的な担保であり、主債務の延長・修正・更新によって失効することはない。)
主契約連動条項(Main Agreement Coordination Clause)
主契約には、保証人の権利または義務に影響する変更については、保証人の書面による確認を条件として効力を発生する旨を明記すべきです。
保証人承認要件(Guarantor Acknowledgment Requirement)
“No variation or indulgence shall affect this Guarantee unless the Guarantor has acknowledged and agreed to such changes in writing.”
(保証人が書面で変更を承認しない限り、いかなる変更や猶予も本保証の効力に影響を及ぼさない。)
補償(Indemnity)の追加検討
債権者は、「保証および補償(guarantee and indemnity)」を組み合わせた契約形態を採用することも検討すべきです。
補償は保証と異なり、主たる義務(primary obligation)であるため、主契約の変更による解除リスクが低いという特徴があります。
補償条項では、「債務者のすべての義務(原契約・変更・更新・延長を含む)」を明示的に対象とすることで、仮に保証が解除されても補償義務は有効に存続します。
これらの条項を組み合わせることで、ビジネス上の柔軟性を保ちながらも、法的保護を確実に維持することができます。
重要なポイント
ビジネス関係における柔軟性は重要ですが、それによって法的な確実性を犠牲にすべきではありません。
保証契約は、変化する商業環境の中でも有効に機能するように作成される必要があります。
たとえ善意による支払延期や契約条件の変更であっても、適切な保護措置が取られていなければ、保証人の責任が解除されるおそれがあります。
Katherine Chan Law Office は、事業条件が変動しても有効性を維持できる、実効性のある保証契約の作成を支援しています。
ビジネスの柔軟性を保ちながら、法的な抜け穴を事前に防ぐお手伝いをいたします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、法的助言を構成するものではありません。記載された事例は架空のものであり、実在の事案・法人・個人との類似は偶然のものです。法令や規制上の要件は法域によって異なり、上記の分析はあらゆる法的または実務上の選択肢を網羅するものではありません。ご自身の具体的な状況に応じた助言をご希望の場合は、Katherine Chan Law Office または資格を有する法務専門家にご相談ください。
本記事の内容に依拠して生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いかねます。

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