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あらゆる連帯責任に十分注意してください

  • Katherine Chan
  • 2024年10月1日
  • 読了時間: 5分

更新日:6 日前

事例紹介

ある日本の有力エンジニアリング会社は、海外経験を積む目的で、香港に同名の全額出資子会社を設立しました。同社はこの香港法人を通じて、地域の公共インフラ事業に参加し、国際プロジェクトへ小規模ながら進出する計画を立てていました。


その機会は、香港子会社が入札共同企業体(consortium)の一員として、東南アジアの大型インフラプロジェクトに入札したときに訪れました。香港子会社の持分はごく小さく、実務的な役割も限定的でしたが、入札は成功し、契約書には業界慣行に従い、入札共同企業体の全構成員が連帯責任(joint and several liability)を負う旨が規定されました。


日本の親会社は非公式な技術支援のみを約束し、建設初期に数名のアドバイザーを派遣したものの、契約上・運営上の関与は一切ありませんでした。香港子会社は少額の参加報酬を受け取っただけで、施工後の運営や保守には関与しませんでした。


数年後、プロジェクトの所有者が変わった後に技術的な問題が発生しました。主契約者が倒産したため、新しい所有者は他の入札共同企業体メンバーに対して請求を提起し、契約当事者ではない日本の親会社までも被告に加えました。


法的な見落としとその影響

紛争の中心となったのは、以下のような曖昧な責任条項でした:


“All consortium members shall be jointly and severally liable for the performance and obligations under this contract.”

(本契約に基づく履行および義務について、入札共同企業体の全構成員は連帯して責任を負うものとする。)


この条項は、業務範囲やプロジェクト段階ごとの責任範囲を明確に区分していませんでした。そのため、実質的な関与がわずかな香港子会社であっても、全額の請求に対して責任を問われる可能性がありました。さらに、日本の親会社は契約当事者ではないにもかかわらず、「実質的なプロジェクト参加者」として扱われました。


問題を一層深刻にしたのが、表見代理(apparent authority)の法理です。親会社と子会社の名称が酷似しており、さらに親会社が現場に人員を派遣していたため、第三者から見ると親会社も入札共同企業体の一員であるように見えました。香港法およびコモン・ロー(common law)原則においては、行為が代理権の存在を合理的に信じさせる場合、当該外観に基づく責任が生じることがあります。


その結果として生じた影響

• 実際には施工も運営も行っていないプロジェクトに関する多額の損害賠償請求のリスク

• 工事不備と結びつけられることによるレピュテーションリスク(信用毀損)

• 国境を越えた訴訟対応に伴う費用と不確実性


法的対応策:より明確な契約条項でリスクを防ぐ方法


• 責任範囲を限定する連帯責任(Scope-Limited Joint Liability)

責任条項は、各当事者の実際の役割を反映すべきです。施工と運営で責任が異なる場合、その区分を契約上で明確に定めることが重要です。


提案例:


“Each consortium member shall be jointly and severally liable only for its respective scope of work as detailed in Schedule X. Operation and maintenance obligations shall rest solely with the designated operator(s).”

(各入札共同企業体メンバーは、附属書 X に定める自らの業務範囲に限り連帯責任を負うものとする。運営および保守義務は指定オペレーターのみが負うものとする。)


• 企業名と法的主体の明確化(Corporate Identity Differentiation)

類似した社名は混同を招きます。香港子会社は明確に異なる社名を採用し、日本の親会社とは別法人であることを契約上明示すべきでした。


提案例:


“ABC Engineering (Hong Kong) Limited is a separate legal entity. No liability attaches to ABC Engineering Co., Ltd. (Japan), which is not a party to this agreement.”

(ABC Engineering(香港)有限公司は独立した法人であり、本契約の当事者ではない ABC Engineering Co., Ltd.(日本)には一切の責任は生じないものとする。)


• 親会社関与の文書化(Documented Separation of Parent Involvement)

親会社の支援がある場合、その関与を正式な書面で明確に非契約的なものとして整理すべきです。推奨される対応としては:

• 派遣人員との間でのコンサルティング契約の締結

• 取締役会決議により、親会社がプロジェクト当事者でないことを確認

• すべてのコミュニケーション文書に「非依拠(non-reliance)」の明示


これらの記録は、表見代理や非公式な関与を根拠とする責任追及を防ぐ有効な証拠となります。


• 契約上の求償条項(Contractual Contribution Clause)

コモン・ロー上、連帯責任を負う当事者間での負担割合の調整(求償)は可能ですが、契約に明記することでより容易かつ公平に行えます。


提案例:


“Each consortium member shall indemnify and hold harmless the others in proportion to their respective scopes of work. Contribution shall be enforceable accordingly.”(各入札共同企業体メンバーは、業務範囲に応じた割合で他のメンバーを補償し、求償権はその割合に従って行使できるものとする。)


重要な示唆

国際的なインフラプロジェクトでは、小さな役割でも大きな責任が発生する可能性があります。社名の類似、非公式な助言、現場での人的関与などが、重大な法的リスクにつながることがあります。特に、連帯責任条項が広範に書かれている場合や表見代理の法理が適用される場合は注意が必要です。


さらに、追加的なリスクとして以下も考えられます:

• 契約上、連帯責任を上限額や除外条項で制限できる場合がある

• 親会社に対しては、法人格否認の法理(veil piercing)や禁反言(estoppel)の適用が主張されることもある(香港裁判所は一般的に慎重な姿勢を取る)


したがって、親会社を不測の責任から守るためには、事前の契約ドラフティングと企業構造の設計が極めて重要です。


Katherine Chan Law Officeでは、入札共同企業体契約や下請契約の作成において、法律上の義務と実際の商業的役割を整合させ、リスク発生前に企業を保護するための助言を行っています。


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的助言を構成するものではありません。本文中の事例は架空であり、実在の事象や団体とは無関係です。法令・規制は各法域によって異なるため、個別の状況に応じた法的助言を希望される場合は、Katherine Chan Law Officeまたは有資格の弁護士にご相談ください。本稿の内容に基づく行動に関して、いかなる責任も負いません。


 
 
 

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