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信頼できない完全合意条項と非依拠条項

  • Katherine Chan
  • 2024年7月1日
  • 読了時間: 4分

事例の概要

日本の産業グループは、技術ポートフォリオ拡大の一環として、中国本土に研究開発および製造拠点を有する有望な香港企業を買収しました。デューデリジェンスの際、売主は先進的なAIやロボティクスに関するプロジェクト資料を提示し、多くが商業化段階に近いと説明しました。


買主である日本企業はその内容に感銘を受け、買収を進めました。しかし取引完了後、実態は大きく異なることが判明しました。主要な研究開発計画の多くは誇張され、一部は概念段階にとどまり、他は技術的に実現困難でした。


買主が疑義を呈したところ、香港の売主はShare Purchase Agreement(株式譲渡契約書)に含まれる「完全合意条項(entire agreement)」および「非依拠条項(no reliance)」を根拠に、契約書に明示されていない表明には依拠しないと買主が合意していたと主張しました。


日本企業はこれに納得せず、「fraudulent misrepresentation(詐欺的虚偽陳述)」および「negligent misrepresentation(過失的虚偽陳述)」に基づき不法行為責任を追及しました。買主は、売主の指示に基づき中国子会社が研究開発の進捗を誇張し、取引を誘引したと主張しました。


法的検討と影響

この事例は、「非依拠条項(no reliance)」が取引後の責任を完全に免除するとの誤解を明らかにしています。


典型的な条項例は以下のとおりです。

"This Agreement constitutes the entire agreement between the parties. The Buyer acknowledges that it has not relied on any representation or warranty other than those expressly set forth herein."

(本契約は当事者間の完全な合意を構成し、買主は本契約に明示されたもの以外の表明や保証に依拠していないことを認める。)


香港契約法上、このような条項は一般的に有効とされますが、絶対的な防御とはなりません。特に詐欺的または過失的虚偽陳述に基づく不法行為責任は、契約条項から独立して判断されます。裁判所は、誠実義務や注意義務を無効化するような免責を容易には認めません。


さらに、Misrepresentation Ordinance(Cap. 284)(虚偽陳述条例 第284章)の規定も重要です。第3条では、虚偽陳述に対する責任の免除を制限し、免除条項が有効となるにはControl of Exemption Clauses Ordinance(Cap. 71)(免責条項管理条例 第71章)に基づく「合理性テスト(test of reasonableness)」を満たす必要があります。詐欺的虚偽陳述は一切免除できず、過失的虚偽陳述の免除も合理的に起草された場合に限り認められます。


本件の結果は重大でした。

• 日本の買主は過大な買収価格を支払ったことにより損失を被った。

• 想定していた研究開発成果に基づく戦略的プロジェクトを断念した。

• 技術鑑定を伴う多法域訴訟が発生し、多額の費用を要した。


法的対応:より良い契約起草による防止策

このようなリスクは、契約書の起草段階でより慎重に設計し、デューデリジェンスを厳格に管理することで防止できました。主な実務上の対応としては次のとおりです。


表明権限の明確化

売主側の誰が拘束力を持つ表明を行う権限を有するかを明示する。


依拠根拠の明文化

契約書に付属するスケジュールに、依拠の対象となる資料や文書を具体的に列挙する。


非公式資料の除外

広告資料や推測的な予測、非公式なプレゼンテーションは依拠対象から除外する旨を明記する。


保証および開示の活用

研究開発の進捗に関する具体的な保証を要求し、開示を条件とする。保証が事実と異なる場合は契約上の救済を行い、不法行為に依存しない構造を作る。


改訂条項の例:

"The Buyer acknowledges and agrees that in entering into this Agreement it has relied solely on the representations and warranties expressly set forth herein and on the written materials formally provided by the Seller during the due diligence process. The Buyer expressly disclaims reliance on any presentations, promotional materials, or projections not included in such written materials."

(買主は、本契約締結に際し、本契約に明示された表明および保証、ならびにデューデリジェンス過程で売主が正式に提供した書面資料のみに依拠したことを認め、その他の資料や予測には依拠しないことを明確に確認する。)


重要なポイント

「No reliance条項」は一定の役割を果たしますが、完全な防御策ではありません。特に、新興技術や未検証の研究開発を含む高額な国際取引では、単なるリスク分担を超え、依拠の範囲を明確に定義し、Misrepresentation Ordinance(Cap. 284)への適合を確保することが重要です。また、保証および開示スケジュールを活用し、実効性のある救済手段を備えることが求められます。


Katherine Chan Law Office は、契約の実効性を確保し、デューデリジェンス、紛争解決、訴訟の各段階で耐えうる堅牢な契約を作成することで、クライアントを支援しています。


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではありません。本文に登場する事例は架空のものであり、実在の事象との関連はありません。法令や規制は管轄地域により異なります。本稿はあらゆる法的または実務的選択肢を網羅するものではありません。具体的な助言が必要な場合は、Katherine Chan Law Office または有資格の専門家にご相談ください。本稿の内容に基づく行動については一切の責任を負いません。

 
 
 

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