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香港の商業契約に潜む落とし穴

  • Katherine Chan
  • 9月1日
  • 読了時間: 3分

香港では、商業契約が迅速に締結されることが多く、十分な法的検討が行われないまま署名されるケースも少なくありません。しかし、重要な条項を見落とすと、深刻な財務的・業務的リスクにつながる恐れがあります。本記事では、実際の事例をもとに、見落とされがちな3つの契約条項—解除条項、補償(インデムニティ)条項、および準拠法および管轄条項—について解説します。

 

落とし穴1:解除条項の欠如

香港では、サービス契約や賃貸契約などにおいて、解除条項が明確に定められていないケースがよく見られます。

·        事例:ある依頼者は、24か月のITサポート契約を締結しました。しかし、サービス品質に不満があったため、6か月後に契約解除を希望しました。ところが、契約書には解除条項が含まれておらず、残り18か月分の料金を支払う義務が生じました。

·        解除条項に含めるべき内容:

  • 任意解除の権利(例:「いずれの当事者も、30日前の書面通知により本契約を解除できる」)

  • 違反時の即時解除(例:「重大な契約違反があった場合、直ちに解除可能とする」)

  • 解除後の取扱い(料金精算、資料の返還、秘密保持義務の継続など)

·        ポイント:解除通知期間の有無や、早期解除時の違約金についても事前に確認することが重要です。

 

落とし穴2:無制限の補償義務

補償条項はリスク分担を目的としますが、曖昧または一方的な内容では、予想外の負担が生じる可能性があります。

·        事例:香港企業A社は、物流会社と業務提携契約を締結しました。補償条項には「サービスの利用に起因する損失、損害、請求について、クライアントが補償する」とのみ記載されており、責任の上限や除外項目はありませんでした。その後、第三者によるデータ漏洩が発生し、物流会社は200万香港ドル超の補償をA社に請求しました。契約上、A社には反論の余地がなく、全額支払うこととなりました。

·        補償条項で明確にすべき事項:

  • 補償の対象範囲(何が補償対象となるか)

  • 一方的か相互か(双方に補償義務があるか)

  • 責任上限や除外項目(間接損害の除外など)

·        ポイント:補償条項は交渉可能です。数行の明確な文言が、将来の重大なリスク回避につながります。

 

落とし穴3:外国法および外国裁判所の選択

準拠法や管轄裁判所を外国に指定すると、紛争発生時に手続きが複雑化し、実務上の障害となることがあります。

·        事例:香港の中小企業が、中国本土のサプライヤーと契約を締結。契約書には「準拠法:中国法」「管轄:上海の裁判所」と明記されていました。後にサプライヤーが契約違反をした際、以下のような問題が発生しました。

  • 中国での訴訟手続きが複雑かつ高額

  • 裁判手続きが全て中国語で進行

  • 上海に相手資産が存在せず、判決を得ても執行が困難

·        留意点:

  • 外国法を選ぶ場合は、相手方資産の所在判決の執行可能性を事前に確認すること

  • 香港での仲裁など、中立的な手続き手段を検討すること

  • 費用・時間・実行可能性を総合的に評価すること

·        ポイント:準拠法および管轄条項は形式ではなく、戦略的に検討すべき重要事項です。

 

最後に:契約書の事前確認は最良のリスク対策

契約書は単なる形式ではなく、企業のリスクを管理するためのツールです。署名前の簡単なレビューが、後の大きな損害を防ぎます。契約の確認やアドバイスをご希望の方は、Katherine Chan Law Officeまでお気軽にご相談ください。

 

免責事項

本記事は情報提供のみを目的としたものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。ケースはそれぞれ異なりますので、個別の法的指針を得るためには、資格を有する弁護士に相談されることをお勧めします。この記事により、弁護士と依頼人の関係が成立するわけではありません。

 
 
 

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