top of page
検索

香港の雇用契約における退職条項の強化

  • Katherine Chan
  • 2025年1月1日
  • 読了時間: 5分

更新日:6 日前

事例紹介

ある日本のロボットメーカーは、重要な製品開発プロジェクトのため、上級エンジニアを香港の関連会社へ出向させました。エンジニアは機密の研究開発データや営業秘密にアクセスできたため、会社は知的財産を保護する目的で、退職後12か月間、中国本土の競合企業に転職することを禁止する競業避止条項 (post-employment, non-compete clause)を契約に盛り込みました。


しかし、その条項は範囲が過度に広く、「アジア地域でロボット、自動化、またはテクノロジー関連の事業活動に従事するあらゆる企業」に就業することを禁じていました。日本企業と直接競合しない場合でも適用される内容でした。その後、エンジニアが中国本土のロボット系スタートアップ企業に転職した際、会社はこの条項の履行を求めました。


法的な問題点と結果

本件の問題の核心は、競業避止条項そのものではなく、契約に含まれていた分離条項 (severability clause)にありました。契約には次のような標準文言が盛り込まれていました。


“If any provision of this Agreement is held to be invalid or unenforceable, the remaining provisions shall remain in full force and effect.”

(「本契約のいずれかの条項が無効または執行不能と判断された場合でも、残りの条項は引き続き完全な効力を有するものとする。」)


この文言は他の条項の効力を維持するものの、競業制限が過度に広いという欠点を修正することはできませんでした。香港の裁判所では「ブルーペン・テスト (blue pencil test)」が適用されます。裁判所は、条項の中で明確に分離できる部分を削除することはできますが、合理的な範囲に書き換えることは行いません。今回の競業避止条項は、意味を損なわずに分離できる構成になっていなかったため、条項全体が無効とされました。


結果として、エンジニアは合法的に中国本土のスタートアップに入社し、日本企業の研究開発計画に関する深い知見を持ち込むこととなりました。数か月後、競合企業は類似製品を発売し、日本企業はASEAN諸国の市場で先行優位を失いました。主な商業的損害は次の通りです。

• 先行者利益の喪失

• 顧客の競合製品への流出

• 知的財産保護の脆弱性が印象づけられ、今後の人材採用力の低下


法的修正:より良いドラフティングで問題を防ぐ方法

香港において退職後の競業制限が有効と認められるのは、正当な営業上の利益 (legitimate proprietary interest)、例えば機密情報の保護などを目的とし、期間・地域・対象範囲が合理的に必要な限度にとどまる場合に限られます。一般的に、機密データにアクセスできる上級職の場合、6か月以内の期間であれば、条項が明確に限定されている限り、有効と判断される可能性があります。


裁判所は過度な条項を書き直すことはないため、雇用主は契約の起草段階で細心の注意を払う必要があります。効果的な方法として次のようなものがあります。

• 段階的ドラフティング (tiered drafting / step-down clauses):12か月、9か月、6か月など、複数の期間や異なる地域範囲を選択肢として設定する方法です。広すぎる制限が無効とされた場合でも、より狭い選択肢が有効と判断される可能性があります。

• 精密な限定 (precise tailoring):直接の競合企業、特定の製品ライン、あるいは地域市場に制限を絞ることで、執行可能性が高まります。

• 補完的な保護 (complementary protections)秘密保持義務 (confidentiality undertakings) や 勧誘禁止条項 (non-solicitation clauses) などを併用することです。これらは広範な競業禁止よりも執行しやすく、組み合わせて利用することが推奨されます。


一方で、一般的な分離条項 (generic severability clause)だけでは、過度に広い制限条項を救済することはできません。


他の法域における修正条項


一部のコモンウェルス法域 (commonwealth jurisdictions)では、裁判所が制限条項を修正できる旨を明示的に定めるケースもあります。例えば次のような条項です。


“If any restraint provision in this Agreement is found to be unenforceable due to its scope, duration, or geography, the parties agree that such provision shall be deemed modified to the extent necessary to be enforceable under applicable law.”

(「本契約中のいかなる制限条項も、その範囲・期間・地域を理由として執行不能と判断された場合、当事者は、当該条項を適用法の下で執行可能となる限度で修正されたものとみなすことに合意する。」)


このような文言は、当事者が条項を法の許す範囲で維持する意図を示すものであり、法域によっては裁判所が「縮減解釈 (reading down)」を行う余地を与えることがあります。


ただし、香港の裁判所はこのアプローチを採用していません。たとえ契約に修正条項が含まれていても、裁判所は不合理な競業制限を修正しません。したがって、香港で事業を行う雇用主は、段階的条項 (step-down provisions)や慎重なドラフティングに依拠すべきであり、司法上の修正に期待すべきではありません。


重要なポイント

退職後の競業制限が企業にとって重要な場合、定型的な分離条項だけに頼るのは危険です。香港では、条項の執行可能性 (enforceability)は裁判所の厳格な審査を想定してドラフトされているかどうかにかかっています。段階的条項や限定的な制約、秘密保持義務や勧誘禁止義務などの補完的措置を組み合わせることによって、条項の有効性を高めることができます。一方、修正条項 (modification clauses)は他法域においてのみ意味を持つ可能性があります。


Katherine Chan Law Officeは、企業がクロスボーダーの雇用契約において機密情報や商業上の利益を守るための契約を策定する際に、専門的な支援を提供しています。当事務所は、条項が理論上のみならず実務上の審査にも耐えられるよう設計します。


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではありません。記載の事例は架空のものであり、実在の人物・団体との類似は偶然に過ぎません。法令や規制の要件は法域によって異なります。本記事の内容はすべての法的または実務的選択肢を網羅するものではありません。特定の状況に応じた助言を希望される場合は、Katherine Chan Law Officeまたは有資格の法務専門家にご相談ください。本記事の内容に依拠した行為について、いかなる責任も負いかねます。

 
 
 

最新記事

すべて表示
香港で警察に尋問される際のあなたの権利

はじめに アメリカ人や日本人として香港に滞在していると、警察の対応に関する理解がアメリカや日本のドラマの印象に基づいていることが多いかもしれません。 • 「You have the right to remain silent.(黙秘する権利があります)」 • 「I want a lawyer!(弁護士を呼んでください!)」 • 「They cannot use that, it is illeg

 
 
通常のフランチャイズ契約に潜む反競争的な罠

反競争的行為(Anti-competitive Conduct)とは? 健全な市場は、企業が価格、イノベーション、サービス品質を通じて顧客の支持を獲得する自由競争によって発展します。しかし、企業が競合他社と協調したり、価格を固定したり、市場支配力を利用して競争を抑制したりすると、反競争的行為に該当するおそれがあります。 このような行為は、一般的に次の2つのカテゴリーに分類されます。 • 共同行為(

 
 
専属管轄条項が執行力を損なうとき

事例の概要 ウェアラブル健康機器のイノベーションで知られる日本の大手電子機器メーカーが、香港を拠点とする委託製造業者( contract manufacturer )と 製造契約( manufacturing agreement )を締結しました。契約には、標準的な保護条項として秘密保持( confidentiality )、情報非開示( non-disclosure )、不使用( non-use

 
 

コメント


この投稿へのコメントは利用できなくなりました。詳細はサイト所有者にお問い合わせください。
bottom of page